起業の道を進んだ発端は、母の死
ハルカが20代の時、母が亡くなった。
闘病はたったの半年しかなかった。
あっという間に弱っていく母。
希望を持ちたくても、「昨日より良くなったね」と喜べる日は1日も無かった。
人生の中で、
大好きな母と過ごせる時間は、もうほとんど無い。
みるみる弱っていく母を見て、そう思った。
仕事なんてどうでもいいから、母と一緒に居たいと思った。
他の20代の女子は、これから結婚したり出産したり、いろんな場面で『母』の温もりを味わえるんだろうけど、どうやら私にはその時間は残されていないようだった。
今の1分1秒を一緒に過ごそう。
そうして私は仕事をやめた。
正確には、父が働いていたし、私は独身だったから、辞めることができた。
仕事を辞めてから2ヶ月間、24時間、
母のそばにいた。
2ヶ月×24時間=1440時間。
毎月1日を母と過ごす人なら5年分。
半年に1度、3日間くらいを過ごす人なら10年分…
私は2ヶ月で「貯過ごし」した。
中でも母と過ごした最後の24時間は、自分が地球に生まれてきた日の次に幸せな1日だったと思う。
だんだん呼吸の感覚が広がって、地球を退席しようとする母の門出は、それはそれはエネルギーの高いものだった。
一番幸せな日の後は、一番苦しい日があるもので…
やっぱり後悔するのだ。
「もっともっと、一緒に過ごせばよかった。」
母の死を目の前で見届けてから数ヶ月が経った頃。
抜け殻に魂が戻ってきた私は気がついた。
私にはまだ、大切な父がいる。
母の時は、働く父に甘えて、仕事を辞めて母のそばに居ることができた。
だけど次は?
私が結婚していたら?
父の時は仕事を辞めることすらできないかも?
子どもがいたら?
そもそも独身だったとして、サラリーマンだったら?
あれ?サラリーマンじゃ、そもそも仕事を休めるとは限らないし、どのみち思うように介護とかできないんじゃん。
一緒に居られないじゃん。
私は大事な人と一緒にいることに時間をいっぱい使いたいんだ。
そんなことすらできないのか、私は。
もちろん、介護の前から。
できれば今からでも多くの時間を一緒にいたい。
地球を退席してしまったら、もう地球では一緒にいられないんだから。
そう思ったハルカは、タクヤと出会う前から
サラリーマンでは生きない
ということだけは決めていた。
起業しようと動く人は、全員何かしらの理由があって起業すると思うけど、これがハルカの起業の理由だったんだ。